みどり色のぞう

(目次)

1、はじまり
2、初めて見る生き物
3、ひとりぼっち
4、一つだけのお願い
5、竜巻のあと

作:まかだちよこ
絵:西川美智子
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1、はじまり

 「ねえお母さん、何かお話して。」
巣の中でひな鳥はお母さん鳥に言いました。
「そうねえ。」 といいながら何かを探すようにあたりを見回し、にっこりと微笑みました。
 風にゆれる木の葉の間から時々太陽が顔をのぞかせます。
お母さん鳥は小さなせきばらいをひとつすると、きれいな声でゆっくりと話しはじめました・・・。

2、初めて見る生き物

 ここは、いろんな動物たちの住む大草原。
地平線の向こうまで続く広い青空の下には、キリンにライオン、蛇にしまうま、鳥にトカゲにてんとう虫、そのほか数えきれない動物たちが、のんびり生活しています。
 いつものようによく晴れたある日のことです。突然、たくさんの砂ぼこりとともに強い強い風が吹いてきました。動物たちは草をかむのをやめ、幼いさな子供たちはお母さんのお腹の下にもぐりこみ、小さな虫たちは木や草につかまって目をつぶり、風が通り過ぎるのを待ちました。
そしてようやく風がやみ、目を開けてみると、なんということでしょう、見たことのあるようなないような、不思議な動物がちょこんと座っているではありませんか!
 大人たちはひそひそ相談します。
「こいつなんだ?ゾウか?」
「違うよ、ゾウはこんな色じゃないよ。」
「でも鼻が長いぞ、ゾウだよ。」
「みどり色の?」
 すると子供たちが出てきて言いました。
「おまえどこからきたんだ?」
「へんないろ。」
「きもちわるーい。」
「ははははーーー。」
大人たちもいっしょになって笑いました  この子の名前はグーリといいました。強い強い風に飛ばされて仲間とはぐれ、見たことのないところに来てしまったグーリ、迷子です。
 退屈だった大草原で、このみどり色をした小さなゾウは、かっこうのおもちゃとなってしまいました。
「おいグーリ、おまえゾウのくせに、なんでみどり色なんだよ。」
「わからないよ、もともとこうなんだ。」
「お父さんもお母さんもそうなのか。」
「お父さんはあお色で、お母さんはき色なんだよ、とってもきれいなんだ。」
 自慢げに答えるグーリを見てほかの動物たちは大笑い。
「おまえの一族は異常だ、変態だ。」
「わっはっはっはっは・・」
 グーリにはなぜそういわれるのかわかりませんでした。お父さんもお母さんもおじいさも親戚のお姉さんもそれぞれ別の色をしていましたが、それはそれはとてもあざやかな、美しい色をしていて、みんな自分の色を自慢にしていたし、お互いに敬意も払っていました。それなのに、この草原に住む動物たちは笑うのです。グーリはとても悲しくなり、みんなから離れたところに行きました。

 

「みんなひどいよ、異常だなんて。」
「あら、私はそうは思わないわ。」
「え?だれ?」
「あなたのすぐそばにいるわ。」
 するとグーリの鼻に一羽の小鳥がとまりました。
「こんにちは。わたしね、あなたがこの草原にやってきたときからずっとあなたのことを見ていたのよ、空の上から。」
「どうしてぼくを?」
「だって、ほらよく見て。」
 小鳥は鼻の上で羽根を広げ、くるりと回ってみせました。
「あっぼくと同じ色をしている。」
「そう、しかもとびっきりきれいな色だと思わない?お互い。」
「うん、思う。」
 それからというもの、二人はよく遊ぶようになりました。いっしょに水浴びをしたり、昼寝をしたり、散歩をしたり、おしゃべりをして笑ったりして一日一日を楽しく過ごしました。ここに来て初めての友達でした。しかしその楽しくってしょうがない日々も長くは続かなかったのです。

3、ひとりぼっち

 ある日小鳥が言いました。
「私しばらくの間グーリにあえないの。」
「えっ?どうして?」
「そろそろ巣作りをしなくちゃいけないの。それはとても大事なことなの。」
 小鳥は自分に言い聞かせるようにいいました。
「・・・うん。」
「私たち小鳥の家族が、ずっとずっと先まで生きていくために。」
 グーリは本当は嫌だったけれど、そう言ってしまったら、小鳥はとても困ってしまうかもしれないと思って、
「うん。わかった。」
 と答えました。
「そんなに寂しい顔しないで、しばらくあえないだけよ。」
 小鳥はにっこり笑いました。
「ごめんね、こんなこと突然言い出して。もっと早めに言っておこうと思ったんだけど、何となくいえなかったの。」
「・・・うん。」
 グーリは小鳥が言い出せなかった気持ちが少し、わかるような気がしました。ひょっとするとこうやって気持ちが通じあうのが友達というのかな、ぼんやり思いました。
「しばらくあえなくても、ずっと友達でいたいな。」
「もちろんよ。」
 小鳥はこういって空高く飛び上がり、グーリの頭の上を何回かまわったあと、去っていきました。小鳥も寂しそうでした。
 また一人きりになってしまったグーリ、しばらくは石をけったり、草を食べたり、ねころがってみたりと遊んでみたものの、やはり一人ではおもしろくありません。やがて、いつものように夜がやってきました。すると急にお母さんが恋しくなりました。グーリは夜の優しい風にお願いします。
「ぼくをお母さんの所へ連れていってください。」
 しかし夜風はこう答えます。
「ごめんなさい、グーリ。私にはあなたをつれていけるほどの力はないの。砂ぼこりも立たない風なの。でもね、あなたの願い事を叶える方法がひとつだけあるのよ。」
 夜風は静かに話し続けます。
「明日、この草原に竜巻が来るの。その竜巻に向かってこう言いなさい。『ぼくをお母さんの所へ連れていってください』と。でも絶対にほかのことは言っちゃだめよ。この竜巻は風の神様。願い事は一度だけしか聞いてくれないの。いい?じゃあ私はもう行かなくちゃ、元気を出して、グーリ。」
 そう言って夜風は去っていきました。

4、一つだけのお願い

「うわぁっ!」
どすんっ
次の朝のことです。グーリは大きな落とし穴に落ちてしまいました。
「いてててて・・。」
 外からは声が聞こえます。
「やったやったー。」
「グーリがひっかかったぞー。」
「わーいわーい。」
あの動物たちのしわざでした。すぐに出ようとしましたがうまくいきません。グーリは助けを呼びました。しかしやはり誰も来てはくれません。小鳥が来てくれないだろうかと思いましたが、小鳥が巣作りをしているところまで声が届きません。
 お昼が過ぎました。グーリの涙は穴の中いっぱいになりました。涙の池にぼんやり映る自分の顔を見たグーリは思いました。
 あーあきっと僕がみどり色だからみんないじめるんだな・・・。
 グーリはたまらなくなって、またしくしく泣いてしまうのでした。

 

 その時です。
 どこか遠くのほうから叫び声が聞こえて来ました。竜巻がやってきたのです。大きな大きな竜巻です。グーリがやっとの思いで穴の中から首だけを出してみると、草原は大変なことになっていました。動物たちが次々と竜巻に飲み込まれているのです。所々に生えている木もねっこから抜けて飛ばされたり、恐ろしい悲鳴のような音をたててなぎたおされたりしています。これは草原の一大事。グーリをいじめた動物たちも逃げ場を失って、吹き飛ばされそうです。グーリははっとしました。
「小鳥さんは大丈夫だろうか・・」
 この草原での、たった一人の友達です。そう思うといてもたってもいられません。必死に穴から出ようとしました。でもからだが小さくてうまくいきません。
 そのとき、グーリは夜風の言葉を思い出しました。
「竜巻は風の神様、願い事を一つだけ叶えてくれるの。」
 グーリは決心しました。
「よーし、風の神様にお願いします。ぼくの体を大きくしてくださーい!」
するとどうでしょう、グーリの体はみるみる大きくなり、小さな穴から軽がると抜け出しました。

 

「パオーン!」
 大きく一声鳴くと同時に竜巻の中心に向かって力強く走り出しました。
 体の大きくなったグーリ、はじめは小鳥を助けたい一心でしたが、自分より小さな動物たちが必死に風に耐えているのを見ると、どうしても助けてあげたくなりました 。
「オーイ!みんなー、僕のお腹の下に早く、早く隠れるんだー!」
 グーリの大きな声を聞いた動物たちは必死になってお腹の下に逃げ込みました。太く、大きな四本の足はびくともせず、しっかり大地にふんばって、竜巻と戦っています。あまりに強い風の渦なので息をすることさえ苦しい動物たちは、目を閉じ、歯を食いしばってうずくまっています。

5、竜巻のあと

 夕日が草原をオレンジ色に染めはじめた頃、竜巻はようやく去っていきました。恐ろしい傷跡を残して草原を後にしたのです。お腹の下の動物たちは疲れはて、ほっとしたのかそのまま眠り込んでしまいました。よくみるとみんなの寝顔の中に小鳥の姿もありました。
「よかった、みんな助かったんだね。ありがとう神様・・・。」
 グーリの体はすさまじい速さで飛んできた木の枝や小石のせいで傷だらけになって、たくさんの血が流れています。
「グーリ!」
  小鳥の声でした。グーリは閉じかけた目をゆっくり開きます。そしてかすれた声で聞きました。
「無事だよね、けがしなかったよね。」
「ええ、大丈夫よ。あなたのおかげよ、グーリ。ありがとう、ありがとう、ありがとう・・・。」
「いいんだよ、友達じゃないか。」
 そういいながらグーリの目が少しずつ閉じていくのに小鳥は気づきました 。
「グーリ?大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと眠るだけだよ・・・。」
 そして夜風が吹く頃には、もうグーリは息をしていませんでした。みんなを守ることに力を使い果たし、死んでしまったのです。
「グーリ、グーリ。」
 夜風が呼んでも、もう返事をしません。
「グーリ、家に帰るっていう願い事をしなかったのね。大きくなってみんなを助けてあげるなんて。」
 夜風は言葉につまり、グーリのやさしい心と勇気に涙を流しました。その涙は風にのってグーリに降りかかりました。すると不思議なことに、グーリの体は木になっていくではありませんか。四本の足が四本の幹に、上にはこんもり、みどり色をした葉がしげっています。死んでしまったグーリはみずみずしい大きな木に生まれ変わったのです。夜風のささやかな魔法でした。
 夜空にはぽっかり満月。草原の動物たちは大きな四本の木の下で、ぐっすりと気持ちよさそうに眠っています。みんなどんな夢を見ているのでしょうか。
 草原にこんな寝言が聞こえました。
「グーリ、ありがとう。」

「ねえ、それって本当にあったお話?」
 ひな鳥は小さな目をお母さん鳥に向けてたずねました。お母さん鳥はやさしくほほえみながら答えます。
「そうね、あなたがこの大空を自由に飛べるぐらい大きくなったら、本当かどうかきっとわかるわ。どうしてこの草原に生まれてくることができたのかということも・・・。」
「ふーん。」
 ひな鳥は不思議そうな顔をしながら返事をします。
「僕はいつ大きくなるの?早く飛べるようになりたいなあ。」 「あわてなくても、もうすぐよ。」
 お母さん鳥はにっこり笑いました。
「じゃあお母さんそろそろご飯をとってくるから、待っててね。」
「うん。」
 お母さん鳥はみどり色をした羽を広げて巣を飛び出し、空高く舞い上がりました。
 目の下にはどこまでも続く大草原、そしてひな鳥の待つ大きな大きな四本の木・・・。

おわり